会場は平成17年に合併して甲州市となった、旧勝沼町の「勝沼ぶどうの丘イベントホール」でした。
ここは勝沼町が勝沼産の葡萄で醸造したワインを世界に発信しようという意気込みでつくった施設です。
「ぶどうの丘」というだけあって(70名弱とのことでした)、小高い丘の上にある施設からは、勝沼の街並と遠くにそびえる山並みが一望の元に見渡せます。
今回はいつもよりも参加者が少ないようでしたが、埼玉県からの参加者がかなりいたようです(質問で埼玉県○○市、という方が何人も)。
オンデマンド交通のカンファレンスやセミナーには何度か参加しているのですが、今回のテーマが「高齢化社会とオンデマンド交通」というものだったので、そこに絞った自治体の事例発表を是非、と思って参加しました。
☆胸張って語ってくださった玉城町の課長さん
ここは以前のカンファレンス、「鳥羽」に伺った際、実際にオンデマンドの運行システムを見せていただいた町です。最近は、NHKの路線バスをテーマにした番組でも紹介されていました。
玉城町は、当初から「福祉バス」です。料金は無料です。
運行を担っているのが、社会福祉協議会です。
「元気バス」と名付けれらているように、ご高齢の方がこのバスを使って外出する機会が増えることによって、元気になってもらおうという意図がはっきりしています。スタート時点は、マイクロバス3台でスタートしたこの元気バス、現在は4台まで増車しています。
60歳以上の方にスマートフォンを配布して予約もスマートフォンで、という方法をご高齢の方に受け入れてもらえるよう、さまざまな工夫をしています。
加えて、スマートフォンの特性を利用して、緊急通報システムにもつながるようにしています。具合が悪くなったら、緊急通報ボタンを押すだけで、あとはGPSの位置情報が割り出し、近くにいる協力員が駆けつける、ちいうシステムです。
配食サービスもいいけれど、「元気バス」を使って外食したり、買い物したりする「たのしみ」を、というコンセプトがあります。それを地域で見守る体制が整いつつあります。
まだ顕著な効果は現れていないけれど、「元気バス」と使って温泉施設に出かける人増え、介護予防の体操教室の参加者は比べものにならないほど増えているとのこと。
先々、高齢者医療費のうちでも、入院にかかる医療費の増加の抑制につながるのではないか、という感触を得ているようです。
「うちはこういうコンセプトでやってます」相変わらず胸張ってお話くださった、総務課長の林さんでした。
☆費用対効果、ではない、と甲州市の課長さん
さて、甲州市のオンデマンドバス導入のきっかけです。
甲州市では、赤字のため民間バス事業者が撤退したあとのバス路線を市民バスとして運行しています。
その経費が年に1億2000万円。
「それだけかけて空気を運んでいるのか」という市民の非難の声を受けて、なんとか便利な交通システムを、とオンデマンドの導入を決めたとのことです。
その理由を、市民生活課長さんは、こう話してくれました。
「今導入しないとダメだ」
現在甲州市の高齢化率は29.4%、30%を超えるのももう時間の問題。
ということだけでなく、今の高齢者がもっている譲り合いの精神、感謝の心こそ、オンデマンド交通を成功させる鍵になる、と考えたからとのことです。
玉城町のように、高齢者を中心とするいわゆる交通弱者の外出を支援させることを明確に目的にしています。
導入にあたってとったアンケートは4000件、そして、地区説明会や出前講座はのべ600回を重ねたといいます。
しかも、地区説明会は、地区長さんを中心としたものでなく、その地区の高齢者の集まり、憩いの家など、ご高齢の方が集まっている場に足を運んでの説明をきめ細かく行ったとのことです。
バスよりは便利、でもタクシーのようにはいかない、オンデマンド交通をこのように位置づけているからこそ、
☆バス停は200mほどの感覚で設ける。
・ドアツードアではない
・そこまで歩くことが大事
・利用者同士で安否確認にもなる
などの意味があるのだそうです。
このような努力で、住民の参加意識が高まったとのこと。
説明会の資料はA3の両面印刷で、大きな字で分かりやすく説明されています。何よりも感心したのは、予約のダイヤルを0120、つまり無料ダイヤルにしたことです。これによって気軽に質問もできる気持ちになったとのこと。
利用する高齢の方の心理を把握しての策です。
というよりも、施策がきちんと市民の側に立った視点で方向付けられているからこそ、と思いました。
こうして、タクシー事業者とも協議を重ね、お互いに補い合う関係の公共交通システムを、とこれは今後の課題として取り組みそうです。
何よりも「平等の中にも優先順位がある」という言葉が印象的でした。
☆コミュニケーションづくりになる公共交通、という指摘に納得
最後の「高齢者社会のコミュニティとオンデマンド交通」という東京大学・新領域創成科学研究科の中でも社会文化環境学の鬼頭秀一先生のお話に期待していました。
ところが、この前の国会議員の方がオンデマンド交通とは全く関係のない、ご自分の政治論を長々と、持ち時間を超えて展開され、駆け足になってしまったのが残念。
しかし、
「近代の産業社会の論理から、とくに‘’効率性‘’から切り捨てられてきたさまざまな要素を蘇らせることが新しい形の‘’社会技術‘’」
「一つの技術や制度が一つの主要な機能を持つだけでなく、より多くの機能を持つことによりさまざまな深い意義を持つようになり、さまざまな社会的ネットワークによって支えられるようになる」
など、興味深い論が次々に展開されました。
「交通・輸送はかつては単にモノや人を移動させることではに、より包括的な社会的な意味をもっていた」
という指摘は納得です。
「環境的なサスティナビリティの実現が大きく求められる高度成熟社会において、「縮小」を基軸にシュア階を組み直していかなければならない時代を迎えて、交通・輸送ということが持つ意味はより広く、多義的なものとなってきた」
という指摘は、交通問題の中で初めて聞き、新鮮でした。
だからこそ、乗合い交通としてのオンデマンド交通は、新たなコミュニティを形成する大事な手段になるのだということを、玉城町の利用者の聞き取りから得ているようです。
「ゆっくり運ぶことにも意味がある」
のですね。
これからじっくり噛み締めて、考えてみたいと思ってお話でした。
県内の自治体の職員さんの参加もありました。このような研修に参加する職員さんがいらっしゃるというのは、うらやましい限り、と思ってしまいました。



